少しハニカム構造体

ふみのつれづれ

盗んだバイクで走らない

こんなことを書くと私には繊細さのカケラもなく(曲がりなりにも短歌を齧っていたのに)詩人の素質が全くないということを暴露することになりそうなので少し気が引けるのだが、小学校中学校とくに小学生の頃は学校が大好きだった。学校は勉強するところなので勉強も大好き、勉強が好きというより学校が好きだから勉強も好き、そんな感じだった。

ひとりっ子で家にいるとまわりが大人ばかりなのでつまらない、というのが最大の理由だったように思う。朝、もう一刻も早く学校にいきたくて仕方ない。家が学校のすぐ近くだったこともあり、学校に一番乗り(まあきちんと確認したことはないが)とか。そのうち学校に早く来る常連みたいなのがいることを知り一番乗りを競うようになる。一番乗りのライバルは一学年下の女の子だったが、おぬしなかなかやるな、とたぶんお互い思っていた。

早く行って何をするかというと、教室にランドセルを置いてボールを抱え校庭に行く。一番いい場所にドッヂボールのコートを確保するためだ。私は運動オンチだったしけしてドッヂボールが楽しいわけではないのだが、とにかく毎日、雨が降っていなければそんな感じだった(もちろん雨の日もとにかく早く行く)。

4年生のある日、給食を食べていて喉に違和感を覚える。何かが刺さっているようてちくちくして痛い。給食にゆで卵が出たのでこれはきっと卵の殻も一緒に食べちゃったのかなと思う。担任に申し出ると、とにかくすぐ帰っておうちの人に話しすぐ病院に行けという。祖母と病院に行くとすぐ取ってくれ、それは卵の殻ではなく木の棘のようなものだった。

痛みはなくなり家にいると、とにかくたいくつでしょうがない。学校が恋しくてしかたない。学校にまた戻るとちょうど体育館で体育の授業中、縄跳びをやっていて、今日はもう学校に来なくていいんだよという先生の言うことも聞かず大縄跳びを待つ列に加わる(もちろんうまく跳べないのだが)。

余談だが放課後先生がうちに来て、祖母と私の前でとにかく平謝りする。私の喉に刺さっていたのは、給食を作る時に使う大きな木製のへらか何かの切れ端らしい。たしかかかった医療費を学校が負担しますとかいう話になったのだったが、何しろ昔のことなのでおばあちゃんは、けっこうですよ先生、というようなことを笑いながら言う。

私の友だちに高校1年になる息子がいるのだが、ご多分に漏れずギターをやっている。末はプロミュージシャンになりたいという。友だち、つまりその子の父親が、ある時私に相談をもちかける。息子に友だちがいないらしいのが心配なのだという。息子くんに聞けば、同じ学校でまわりにギターやらをやっている子はいるにはいるのだがあまりにレベルが低くてんで相手にならない、友だちを作ってもしょうがない、学校もやめてしまいたい、ということらしい。

私は友だちに言う。たとえばさ、どう考えても尾崎豊には友だちがいなさそうでょ?息子くんは尾崎豊みたいな歌を作るようになるかもしれないじゃん。友だちがたくさんいる子にはその子なりの幸せがあるかもしれないけど、友だちがいない子、学校に馴染めない子にはその子なりの幸せがあるかもしれないじゃん。疎外感を味わうことなしにはなかなか見えない何か、っていうのもあると思うよ、と。

こんなアドバイスが良いのか悪いのかわからないが、自分のことを振り返ってみての今の私の偽らざる気持ち。だって、私は疎外感を味わうことがなかったから、疎外感を感じる感性が鈍くて自分とは何なのかあまり考えずに思春期を過ごしちゃったから、性転換についてもえらい遠回りをしちゃったような気がしているから。ま、だからってべつだん後悔するほどのことでもないのだけど。

盗んだバイクで走らない。私はそういうヤツ。