少しハニカム構造体

ふみのつれづれ

たましいの尻尾の入った箱

私の今の実家は私が高校受験の頃に建て替えたものだが、それまで住んでいた土地に建て替えるので工事中の仮住まいが必要だった。

仮住まいに借りた家の、1階はもとは何かの店だったんだろうと思うようながらんとした広いスペースで、そこが我が家の家具だのとりあえず使わないものを保管する場所、狭い階段を上がったところにある台所付きの二間が両親と祖母、私が身を置く場所だった。私が高校入試のための勉強をするには手狭だと、一時期、私だけ母の実家に下宿のように住んでいたこともある。

仮住まいの家に越すため、古い家で荷物の整理をした。要るもの、これを機会に処分してしまうもの。母が「これ、もう要らないでしょ?」と言って私の前に置いたのは、1コのダンボール箱。ダンボール箱に母が水色の模造紙を貼ったもので、中には私の幼稚園の頃のいろいろなものが入っていた。いろいろと言ったってダンボール箱ひとつなのだから、たかが知れている。何が入っていたのかはよくわからないが、おそらくキンダーブックとか。

私は、引っ越すのに荷物をまとめなければいけないというちょっと切羽詰まった状況に気圧されたせいもあって、ついうっかり「うん」と言ってしまった。

幼稚園の頃のものだし、何が入っていたのかもよくわからないのだからどうでもいいようなものだが、そのダンボール箱を捨ててしまったことを、私はなぜか今でも後悔している。私のたましいの尻尾を、無理矢理に無造作に、それも他でもない母によってちぎって捨てられたみたいな、今でも思い出すとこころの痛みで涙が出そうになるくらい、何故だかわからないが、ほとんど後悔なんてしない私の最大にして、たぶん唯一の後悔。

優等生で聞き分けの良かった私が壊れ始めた瞬間。母子関係が壊れた瞬間。おおげさでなく、そんな気がする。しかも、母だけの責任なのではなく私がそれに同意しているのだから、私の後悔。

あの箱には何が入っていたんだろう。たぶん私のたましいの尻尾。捨てられ焼かれた、私のたましいの尻尾。きっと私は今でも、その失ったたましいの尻尾を修復しようとしている。